Sweet Mulberry Farm Diary
スウィート・マルベリー・ファームでおこる出来事
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永遠にともに



―気持ちだけはいつまでも若いつもりなんだがなぁ…



夢から覚めてぼんやりとした意識の中、それでもまだ体を
起こす気にはなれずロッキングチェアーに身を委ねる。
視線だけを時計に移してみると既に日付は変わっていた。



―それでもアダムなんかは相変わらず酒量が変わらないんだよなぁ…
 大したものだ。



翌日…日付が変わって今日、再びこのマルベリーファームを発つという事で、
昨晩は娘達や使用人と食事を共にしていたのだが…
どうも少々酒が過ぎたようだ。
いくら暖炉の前が心地良いとはいえ、そのまま寝てしまうとは…



―いやいや、オレ…私が酒に弱くなったせいじゃない。
今年のコーン・ウィスキーの出来が良かったせいさ。



椅子から体を起こし、暖炉に薪をくべる。
淡々しい炎は力強さを増し、小気味良い音を立てて燃えた。



―…最初はこの暖炉くらいしか無かったのになぁ…



不規則に揺らめく炎を何と無しに眺めていると、炎の向こうに
あの頃の景色が見えてくる。
夢とこの身一つで…いや、一つじゃなかったな。
彼女と共にこの新しい大地を踏みしめた時、それまでの生活に
あったものは何も無かった。
暖炉は華美な装飾が施されたインテリアなどではなく、この体に
温もりと光を与えてくれるすすけた暖炉だった。



―それから…まぁ、色々あったな…



自然と共生する日々は困難の連続だったし…気性の荒い連中
との厄介事もあった。
アンジェラが誘拐されそうになった事もあったし、ウェンディが産まれる
時は雷雨が続いて農場を守るためにおおわらわだった。
だがこの暖炉の前でマーガレットと喧嘩をした回数といったらそれ以上だ。



溢れかえる思い出と共に苦笑がこぼれる。
スゥイート・マルベリー・ファームが与えてくれた日々は…
幸せと充実の連続だった。



―…三十年前、何もかも捨てて家を飛び出してきた…



そこはオレの居場所じゃないと思ったから。
オレの力で手に入れたモノじゃないと思ったから。
「ラングフォード伯爵家長男」なんて衣装はオレには過分だと思ったから。



そうしないと…何かを捨てないと、何かを得られないと思ったから。



―だけど…オレは結局、何も失っていなかった。



あれから三十年、オレの手から零れ落ちたモノは何一つなかった。



共に歩き
共に笑い
共に築いてくれた人達がいた。



この両手に余るほどのモノ達を捨てずに来れたのは
その両手を差し出してくれる人達が傍らにいたから。



―オレは…幸せ者だな…



ありがとう。



誰とはなしにそう呟く。



瞼を閉じて頭を垂れると



パチリ、と一つ、遠慮気味に暖炉が音を立てた。
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good old days



懐かしいでしょう?



そう言って妻が持ってきた古い写真―

ぎこちない笑顔の若き日の自分に思わず苦笑する




名家と云われるラングフォード家の長男として生まれ
何不自由なく暮らしていたあの頃


あの不自由ない暮らしこそが不自由なのだと気づいたのは
いつだっただろうか




両親の期待は常に二歳上の姉に注がれていた
姉は何をやらせても優秀で周囲の追従を許さなかった


そんな姉といつでも比較され、叱られこそすれ褒められたことなど
一度もなかった自分は、周囲から「次期当主」と囁かれていたが
両親はそんなこと微塵も思っていなかったのではないだろうか



そう・・あの時までは―


でも、それでいいのだと
自分は二番手くらいがちょうどいいのだと
そう自分に言い聞かせて生きてきた


あれは、17歳の頃だっただろうか―
姉は何の前触れもなく家を出た
弟の自分にさえ知らせずに


当初、誘拐だと大騒ぎになったのだが
しばらくして手紙が届いた



姉は駆け落ちをしたのだ




思い切りの良さはラングフォード家の血筋なのだろうと
今なら笑い話にできるが
17歳の自分にとっては厳しい現実だった


あれから30年か・・・


たまには姉さんと昔話をしながら
酒を飲むのもいいかもしれない



あの時は辛かったよ・・と
恨みごとの一つも言いながら
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beloved



雨に煙る森の中を馬車は走る


仄かに漂ってくる
やわらかな土と青臭い草の香り


遠くで小鳥の囀りをきいたような気がした



湿り気を含んだ空気を鼻から吸い込み
肺をいっぱいに満たすと
何だか途端に首下がむず痒くなった


おもむろに片手でタイをゆるめ
シャツのボタンを外す


―ちっとも、変わらないわね


隣りから響く小さな笑い声



変わらない・・か

そうかもしれない



ささやかな夢を心に思い描いていたあの頃と・・・


森を抜けると見えてくる

雲間から差し込む一条の光が照らし出す
私のささやかな夢の結晶



愛する娘達が待つ

スウィート・マルベリー・ファーム
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