Sweet Mulberry Farm Diary
スウィート・マルベリー・ファームでおこる出来事
CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
2425262728  
<< February 2019 >>
SELECTED ENTRIES
SEARCH
<< それは必然 | main | 夢を叶えるための義務 >>

永遠にともに



―気持ちだけはいつまでも若いつもりなんだがなぁ…



夢から覚めてぼんやりとした意識の中、それでもまだ体を
起こす気にはなれずロッキングチェアーに身を委ねる。
視線だけを時計に移してみると既に日付は変わっていた。



―それでもアダムなんかは相変わらず酒量が変わらないんだよなぁ…
 大したものだ。



翌日…日付が変わって今日、再びこのマルベリーファームを発つという事で、
昨晩は娘達や使用人と食事を共にしていたのだが…
どうも少々酒が過ぎたようだ。
いくら暖炉の前が心地良いとはいえ、そのまま寝てしまうとは…



―いやいや、オレ…私が酒に弱くなったせいじゃない。
今年のコーン・ウィスキーの出来が良かったせいさ。



椅子から体を起こし、暖炉に薪をくべる。
淡々しい炎は力強さを増し、小気味良い音を立てて燃えた。



―…最初はこの暖炉くらいしか無かったのになぁ…



不規則に揺らめく炎を何と無しに眺めていると、炎の向こうに
あの頃の景色が見えてくる。
夢とこの身一つで…いや、一つじゃなかったな。
彼女と共にこの新しい大地を踏みしめた時、それまでの生活に
あったものは何も無かった。
暖炉は華美な装飾が施されたインテリアなどではなく、この体に
温もりと光を与えてくれるすすけた暖炉だった。



―それから…まぁ、色々あったな…



自然と共生する日々は困難の連続だったし…気性の荒い連中
との厄介事もあった。
アンジェラが誘拐されそうになった事もあったし、ウェンディが産まれる
時は雷雨が続いて農場を守るためにおおわらわだった。
だがこの暖炉の前でマーガレットと喧嘩をした回数といったらそれ以上だ。



溢れかえる思い出と共に苦笑がこぼれる。
スゥイート・マルベリー・ファームが与えてくれた日々は…
幸せと充実の連続だった。



―…三十年前、何もかも捨てて家を飛び出してきた…



そこはオレの居場所じゃないと思ったから。
オレの力で手に入れたモノじゃないと思ったから。
「ラングフォード伯爵家長男」なんて衣装はオレには過分だと思ったから。



そうしないと…何かを捨てないと、何かを得られないと思ったから。



―だけど…オレは結局、何も失っていなかった。



あれから三十年、オレの手から零れ落ちたモノは何一つなかった。



共に歩き
共に笑い
共に築いてくれた人達がいた。



この両手に余るほどのモノ達を捨てずに来れたのは
その両手を差し出してくれる人達が傍らにいたから。



―オレは…幸せ者だな…



ありがとう。



誰とはなしにそう呟く。



瞼を閉じて頭を垂れると



パチリ、と一つ、遠慮気味に暖炉が音を立てた。
comments(0) | trackbacks(0)

この記事に対するコメント

コメントする









この記事のトラックバックURL
この記事に対するトラックバック